【まんが家先生特集】〜衝撃作「いじめ」シリーズを通して伝えたい思い〜五十嵐かおる先生スペシャルインタビュー


思春期の気持ちをリアルに描き、小学館漫画賞も受賞した『いじめ』シリーズ。
作者の五十嵐かおる先生に『いじめ』シリーズのことや、まんが家生活について聞いてみたよ。


「いじめは、するほうが絶対に悪いと思います」


――『いじめ』シリーズはどのように生まれたのでしょうか?


当時の担当さんから「『いじめ』をテーマに、1本作品を描いてみませんか?」と言われたのがきっかけです。それまでは明るめの作品を描いていたので、最初はとてもびっくりしました!ただ、そのころ世の中に「いじめられるほうにも問題がある」という考え方があって…。「どんな理由であっても、いじめをする方が絶対に悪い」と私は考えていたので、その感覚をまんがにとりこんで描きたいと思いました。



――いじめのシーンはどのように描いていたのでしょうか?


担当さんと一緒に、めちゃくちゃ悩みました。私も担当さんも、実体験としていじめで苦しんだことがなかったので、「いじめって、どういうことだろう?」から始まりました。なので誰かの実体験ではなく、キャラクターを通して、実際にいじめに遭っている子たちの状況を考えながら描いていきました。本当にあったいじめの事件などを調べることもありましたが、あまりに酷く、暴力的で、まんがにはできないほどのものでした。


第1作目の『はじまりの予感』いじめのシーン
(「いじめ―ひとりぼっちの戦い―」収録

――その後、『いじめ』シリーズは長くつづきます。今回「ちゃおコミ」で配信する14作の中で、印象に残っているものはありますか?


「いけにえの教室」(『いじめ―ひとぼっちの戦い―』収録)は、「いじめ」という作品の方向性が決まったお話です。はじめは「いじめをする子が主役なのはどうなのだろう」と心配していました。だけど描いてみたら、読者のみなさんからたくさんの反響がとどいて。「こういうのも描いていいんだ」と、勇気をいただいた感じです。


いじめる側のお嬢様が主人公の回には大きな反響が寄せられた。
『いけにえの教室』(「いじめーひとりぼっちの戦いー」収録)


同じくらい思い出深いのは、「叶わない望み」でしょうか。主人公が、つらい事実に気づくシーンが申し訳なくて…。「ごめんね、ごめんね」と思いながら描いていましたね。そのシーンは、見開きでまっ暗な画面なのですが、とても時間がかかって…。夜中にもくもくと、コピックでベタを塗っていたのを覚えています。


五十嵐先生が主人公に謝りながら描いていたシーン。
『叶わない望み』(「いじめ―叶わない望み―」収録)


「ひらめき」のルーティーンは…歯みがき!?


――「いじめ」シリーズは、どのようにお話を考えていたのですか?


基本的には「ひらめき待ち」です。「どうしよう、どうしよう…」と悩んでいると、そのうちポン!と主人公のキャラクターや、行動が浮かぶんです。おもに歯みがきをしているときに浮かびやすく、30分くらい歯をみがいていることもあります(笑) うかんだら部屋にこもって、パソコンの前で「この女の子はどういう子なんだろう?」と、頭の中をさぐっていく感じですね。


――毎回クライマックスのシーンで、心にささるセリフがたくさん登場します。それも“歯みがき中”に考えるのですか?


もちろん考えてはいるんですけど、どちらかというと「そのキャラクターが言った」という感じです。逆にストーリーの中で、言ってほしいセリフを言ってくれないこともあります。そういう場合は、気持ちの動きやキャラクターが根本的にまちがっているかもしれないので、もう一回最初から考え直します。


キャラクターを最優先にお話を作っている五十嵐先生。
だからこそ主人公たちの行動やメッセージに強い説得力がある。


ずっと伝えたいのは…「あなたはひとりじゃない」


――「いじめ」シリーズを描くときに、気をつけていることはありますか?



「今現在、いじめにあって悲しんでいる子が、読んでさらに傷つかないもの」というのは絶対条件です。いじめている側を擁護する描き方はしないようにしたり…。また、いじめに立ち向かうだけでなく、その子にとって一番気持ちが楽になる結末になるように考えています。


――今、いじめや人間関係でつらい思いをしている子へ、伝えたいことはありますか?


このシリーズを通していつも言っていますが、「あなたはひとりじゃないよ」と伝えたいです。まわりを頼ることは全然はずかしいことではないので、だれかに相談してほしい…とも思います。また、どんな場合でも「いじめ」は良くないことなので、「いじめられた側が自分を悪く感じる必要は何もない」と言ってあげたいです。



もしも困っていることがあったら、周りの信用できる大人や上記の専用ダイヤルに相談してみよう。


自分にがっかりするようなまんが家にはなりたくない


――まんが家になりたいと思ったのは、いつごろですか?


絵を描くのは小さいころから大好きで、大ファンだったやぶうち優先生の『水色時代』や、篠原千絵先生の『陵子の心霊事件簿』のキャラクターなどを描いていました。高校3年生のとき、友達に「まんがを描いたら、絵がうまくなるよ」と言われて、初めてまんがを描きました。でも、お話づくりもネームの描き方も何も分からず、本当にダメダメなものができあがって…。それがくやしくて「ちゃんとまんがになるものを描きたい!」と思ったのが、まんが家を目ざすきっかけでしたね。


――デビューまではどのような道のりだったのでしょうか。


高校を卒業してから、まんが学科がある専門学校に1年通って、そのあと「少女コミック」(現在の「Sho-Comi」)でアシスタントをしました。そのころ「毎月1人プロデビュー」という企画を「ちゃお」でやっていたんです。そこでちゃお編集部の担当さんにまんがを見てもらい、デビューすることになりました。


――憧れのやぶうち先生と同じ雑誌で、まんがを描くことに…!


まんが家になって、初めてやぶうち先生にお会いしたときは、すごく緊張しました。もう、頭の中が「ファーーー」ってなってしまって…。ファンであったことはご本人に伝えられませんでした(笑)


――デビューされたころに描いた作品で、印象深いものはありますか?


『雪ん子!!』は思い出深いですね。初めて「ちゃお」本誌にのった作品です。北海道の中学生がいきなりテレビ番組を作る…というお話なのですが、札幌に取材にも行きました。主人公の「思い立ったら、即行動!」というキャラクターも好きでしたね。私の高校時代の友人にもこのタイプが多く、自分が良い影響を受けているからかもしれません。



五十嵐先生の初コミックス作品!
舞台は北海道。オーディションで出会ったふたりが、ユニットを組んで番組を作ることに!?

――五十嵐先生が、まんがを描くときに心がけていることはありますか?


「妥協しないこと」でしょうか。まんが家に憧れてまんが家になっているので、自分にがっかりするようなまんが家にはならないと、常に思っています。


--今後、描いてみたいお話はありますか?


ちゃおデラックス11月号(※9月20日頃発売予定)で最終回を迎える『わたしたちのカルテ』が、摂食障害をテーマにしたシリアスなお話でした。なので今度は、夢のあるお話を描いてみたいです。頭の中に構想はあるのですが、まだ担当さんにも話したことがないですし、言語化してしまうとそのアイディアに飽きてしまうので(笑)楽しみにしていてほしいです!!




――さいごに、ちゃおっ娘にメッセージをお願いいたします!


いつも「ちゃお」を読んでくださって、ありがとうございます。私もちゃおっ娘出身なので、毎月「ちゃお」をワクワクドキドキしながら読んでいました。今回配信される「いじめ」も、読んで何か感じていただけたらいいなと思います。よろしくお願いします。



【五十嵐かおる先生の作品を読む】



『いじめ』


▼あらすじ▼

「どうして私が・・・?」

些細なことからはじまる、小・中学生の「いじめ」をテーマにした短編シリーズ。
さまざまな視点から「いじめ」について描いた、れんさい当時から話題沸騰の衝撃作。





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